もし孤独死したとしたら、その部屋を掃除する必要があります。
しかし、孤独死のケースでは一般に死んでから発見までに長い時間がかかっているので、想像を絶する猛烈な死臭の中で作業することになります。そこで特殊清掃を依頼することになります。
特殊清掃の依頼料はかなり高額になる傾向にあります。
その費用は誰が払うのでしょうか?
例えばマンションの一室に住んでいた老人がなくなってしまった場合、特殊清掃費を払うのは部屋を所持しているマンションの管理人でしょうか?
それとも老人の親族でしょうか?
また、賃貸住宅の場合大家さんに損害賠償請求をされるかもしれません。
その場合、誰がお金を支払うのでしょうか?
費用を考える上で、
- 原状回復費用
- 損害賠償費用
の2つがゴチャ混ぜになって語られることが多いので、以下ではそれをしっかりと区別して考えていきましょう。
孤独死した場合、原状回復の費用は誰が払うのか?(賃貸住宅の場合)
原状回復とは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、 善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」として、国土交通省が出している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にて定義されています。
費用を支払う責任がある順番にお伝えします。
1位 連帯保証人
まずはその部屋を借りる時に連帯保証人になった人に責任が生じます。
連帯保証人は部屋を賃貸で借りようとする場合、多くの場合において必要となり、親族が連帯保証人となることが多いです。
連帯保証人は保証人とは違って、
催告の抗弁権(債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。民法第452条)
分別の利益(数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第427条【分割債権及び分割債務】の規定を適用する。民法第456条)
検索の抗弁権(債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。民法453条)
を持ちません。
つまり連帯保証人には債務者(ここでは住居人)と同程度の責任が生じるのです。(これが「連帯保証人には気安く引き受けるな」とよく言われる理由です。)
死んでしまった住居人には返済することはできないので、同程度の責任を持つ連帯保証人が費用を負担するわけです。
多くの場合連帯保証人は親族がなるので、1位の連帯保証人が2位の法定相続人を兼ねている場合があります。
この場合、たとえ相続を放棄したとしても「連帯保証人として背負った住居人と同程度の責任」は消えないので部屋の原状回復の義務は残ります。
(「原状回復の義務」はほとんどの場合、部屋を借りる時の契約書に記載されています。)
2位 法定相続人
連帯保証人に連絡がつかない、または払うお金がない、または払う意志がない場合は法定相続人が払うように求められることもあります。
法定相続人は、民法で定められています。配偶者は常に相続人となり、配偶者以外は以下の順に相続人となります。(参考にした国税庁のサイト)
- 子供
(子供が死亡している時はその子供の子や孫などが相続人となります。このことを「代襲相続」とよびます。) - 親や祖父母
(死亡した人の親の方が祖父母よりも順位が高いです。) - 兄弟姉妹
相続を放棄した人は初めから相続人ではなかったものとなります。
3位 部屋の管理人
連帯保証人、法定相続人のどちらにも連絡がつかない等の場合、部屋の管理人が処理を判断します。
そのまま放置しておいたら、異臭被害や近隣住民からの苦情が発生してしまう事が予想されるので放置しておくわけにもいかないでしょう。
管理人が費用を負担するしかありません。
また、連帯保証人、法定相続人となかなか連絡がつかなかったり彼らが対応できなかった場合、管理人がとりあえず特殊清掃を業者に依頼しておいて、後から彼らに請求する場合もあります。
原状回復費用を連帯保証人や法定相続人がどこまで負担するかは、管理人と話し合って決めます。
その際には、ガイドラインを参考にすると良いでしょう。
話し合いで決まらなかった場合ば裁判となります。
裁判によって通常よりも高い原状回復費用が請求されたという例もあります。
孤独死した場合、損害賠償の費用は誰が払うのか?(賃貸住宅の場合)
部屋で孤独死がおこると、大家さんは原状回復の処理をしている間の家賃収入や次の入居者が決まるまでの家賃収入を得る事はできません。
また、孤独死が生じた部屋に住みたがる人は少ないので家賃を下げなくてはならないことも多いです。
大家さん側が連帯保証人や相続人にこういった費用の損害賠償請求をする事があります。
住居人が病死や事故死などで孤独死した場合と自殺で死んだ場合で対応が異なります。
前者の場合故意がなかったと見なされるので、連帯保証人や相続人には大家さんが被った損害の賠償責任はないとされる場合が多いです。
(故意ではない孤独死でも損害賠償を認めた判例も多少あるので、状況によります。)
後者の場合、故意であると見なされるので連帯保証人や相続人には損害賠償責任が生じる場合が多いです。
孤独死した場合の費用は誰が払うのか?
(持ち家の場合)
持ち家の場合、賃貸住宅の場合のように「原状回復の義務」はありません。
特殊清掃費は家の所有者が自分で負担する必要があります。
例えば、親が親の持ち家で孤独死していた場合、法定相続人がその家の所有者となるので、法定相続人が費用を負担する必要があります。
法定相続人が特殊清掃をする事なく家を売りに出し、その家を買った人が特殊清掃の費用を負担をする場合もありますが、いずれにせよ家の所有者が費用を負担する事になるわけです。
この場合は所有者と住居人が同じまたは親族である場合が多いので、損害賠償などが起こるケースは少ないです。
孤独死の処理費用を負担しないようにするには?
・連帯保証人であり、家を借りる時の契約に「原状回復の義務」が含まれていた場合(多くの場合含まれている)、原状回復の費用は負担しなくてはいけません。
・連帯保証人ではないが法定相続人である場合、「相続放棄」する事で、孤独死に関連する費用を支払わなくてよくなります。
相続放棄とは簡単に言うと、亡くなった人の一切の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を受け取らないようにする事です。
相続する財産がマイナス出会った場合に、相続人は相続放棄をする事で借金などのマイナスの財産を引き受けなくてもよくなります。
もしも貯金や土地などのプラスの財産よりも借金などのマイナスの財産に特殊清掃費などの費用を足した合計が大きい場合、相続放棄することも一手でしょう。
相続人には以下の三つの選択肢が与えられ、その中から一つを選ぶ事になります。
- 単純承認
相続財産を全て相続 - 限定承認
債務を支払った後に、それでも財産が残るなら相続 - 相続放棄
全ての財産を相続しない
相続放棄する場合、注意が必要です。
民法921条で定められているように、以下の3つのいずれかを行うと、相続人が単純承認をしたものと見なされてしまいます。
- 相続人が相続財産の全部又は一部を処分する。
例えば、故人の持ち物のうち市場価値のあるものを処分したり、売ったりするとこの行為に当たってしまいます。
相続放棄を考えているのであれば、遺品整理をする際には十分に気をつける必要があります。 - 相続人が第915条第1項の期間【3箇月】内に限定承認又は相続の放棄をしなかった。
相続人は3ヶ月以内に手続きを行わなくてはなりません。3ヶ月以内に亡くなった時の住所を管轄する家庭裁判所に戸籍謄本などの必要な書類と申述書を提出する必要があります。かなり短い期間なので、スムーズに手続きを終わらせる必要があるでしょう。 - 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった。
これを禁じることで、相続を放棄したものがプラスの財産を使えないようにしています。
場合によっては、管理人側が必要以上の費用を請求する場合があります。
必要以上の請求を受ける事がないように、連帯保証人や法定相続人の方は過去の判例や、原状回復をめぐるトラブルとガイドラインなどを参考に十分に下調べをして交渉に向かうと良いでしょう。
部屋の大家さん側も、交渉が決裂し裁判になっては弁護士費用などもかかりますし、周りからの評判もわるくなるのでお互いに納得できる費用を提示するべきでしょう。
連帯保証人がおらず法定相続人しかいない時に、法定相続人が相続放棄してしまうと、管理人が費用を全額負担することになってしまうので賠償請求や代わりに原状回復をした場合の請求における価格提示には気をつける必要があります。